Q:贈与するなら子でなく孫の方が良いと聞くよ・・何故かな
A:相続税対策や遺留分対策に有効な場合があるからだよ
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【贈与で相続税節税】
相続税の節税の方法のひとつとして暦年贈与というモノがあります。
これは贈与税が課されない範囲(基礎控除)である110万円を利用して子などに毎年贈与を繰り返す方法です。
Aさんは、5,000万円預金を持っていました。配偶者は既に他界、子は1人おります。
計算してみたところAさんに万が一のことがあった場合、相続税は140万円かかることがわかりました。(Aさんの財産はこの預金だけです)
「140万円もの税金が課されるのはもったいない」
そのように考えたAさんは、毎年110万円ずつ子に贈与を行うことにしました。
財産を贈与した際には、受け取った側に贈与税が課されますが、受贈者が受け取った財産額が基礎控除額である110万円以下であれば、贈与税は課されません。
Aさんは、この仕組みを使って税金が課されないように財産を子に移管しました。
Aさんはこの贈与を13年間続けました。
その結果110万円×13年=1,430万円の預金を子に移管し、預金の残高を3,570万円までに下げることができました。
Aさんの法定相続人は子1名のみです。
法定相続人1名の場合、相続税が課されない基礎控除額は3,600万円になります。
「やった預金を3,600万円以下にすることができた!これで万が一のことがあっても相続税は課されないぞ」Aさんは喜びました。
ところが、その万が一のことが直ぐに発生してしまいました。急性疾患でAさんは他界してしまったのです。
そこで、相続税の計算がなされました。
結果はAさんの思惑どおりにいきませんでした。
相続税は0円ではなく30万円課されました。
その理由は暦年贈与加算という制度によるモノです。
この制度は相続発生の3年前の贈与は相続財産に加算して相続税を計算するというモノです。
これにより、Aさんが亡くなる前の3年前の贈与(110万円×3年=330万円)は相続財産(3,570万円)に加算され3,900万円になってしまいます。
3,600万円の基礎控除との差額は300万円になるので、30万円の相続税が生じることとなりました。
※注意
現在は3年前の贈与は暦年贈与加算の対象となりますが、今後はその年数が増える可能性(税制改正)があると思われます。
【孫に贈与したらお得?】
Aさんには孫(Aさんの子の子)がいました。
もし、110万円の贈与を子ではなく、孫に行ったらどうなったでしょうか。
この場合は、Aさんの期待どおり、直近3年間の贈与が相続財産に加算されないので相続税は課されません。
その理由は、孫はAさんにとって法定相続人では無いためです。
暦年贈与加算は、原則法定相続人が受ける贈与が対象となります。よって法定相続人ではなく相続税申告に関係のない孫が受ける贈与については、原則暦年贈与加算の対象とならないのです。
このように、暦年贈与加算対策としては、孫への贈与はとても有効な方法だと言えます。
【孫への贈与の注意点】
この話を聞いた資産家のBさんは「これはイイ」と思い、数人の孫に対しバンバン贈与をしました。
しかし期待した節税効果は得れませんでした。
孫でありながら暦年贈与加算の対象になってしまったのです。
その理由は何だったのでしょうか・・・
下記に孫への贈与であっても暦年贈与加算になる例(理由)を列挙します。
(1)理由その1:孫を養子にしていた
孫のままであれば、法定相続人になりません。しかし養子にしてしまうと法定相続人に該当してしまうため、暦年贈与加算の対象となってしまうのです。
(ただし養子にすることで基礎控除額が増えたり、相続税の税率が下がったりして相続税が下がる効果が期待できます(ただしこの対象となる養子の数に限度があります))
(2)理由その2:孫に対し遺言にて財産を遺贈した
孫であっても遺言にて財産の遺贈を受けると相続税計算の対象者となります。この対象者になってしまうと暦年贈与加算の対象になってしまいます。
(3)理由その3:孫が受取人として生命保険金を受け取っていた
上記(2)と同様、この場合も孫は相続税計算の対象者になり暦年贈与加算の対象者になってしまいます。
(4)理由その4:孫の親(Bさんの子)が既に亡くなっている
この場合は、孫がBさんの子の代襲相続人になっているため、暦年贈与加算の対象者になってしまうのです。
このような例(理由)があるので、注意が必要です。
【贈与と遺留分】
いくつかの注意点があるものの相続税の節税において孫への贈与は有効であることはお分かり頂けたと思います。
実は、この税以外にも有効に活用できるコトがあります。
それは遺留分対策です。
Cさんには2人の子(長男と次男)がいました。(配偶者は既に他界しています)
次男は、諸処の事情でCさん一家に多大な迷惑をかけてきたCさんにとっては勘当息子です。
「次男には一切の財産を渡したくない」その思いでCさんは「全ての財産を長男に相続する」という遺言を作成し、これに加え長男に対し、110万円の生前贈与を年々繰り返しました。
その後Cさんに相続が発生しました。その時点の財産は3,000万円、長男が生前に贈与を受けた財産は1,000万円でした。
遺言書を見た次男は、全ての財産を長男が相続する遺言に対し「兄貴ずるい!たとえ勘当息子であっても権利がある!」といって長男に対し遺留分減殺請求をしました。
遺留分減殺請求とは、遺言により財産の相続を受けた場合、その財産が自身の法定相続分の1/2に満たない場合、その満たない部分の金額を請求できる権利です。
長男は、次男がこの請求をしてくることをはじめから想定していました。
「そうかわかった、親父の残した財産は3,000万円だから、お前の遺留分は法定相続割合(1/2)の半分(1/4)である(3,000万円×1/4=)750万円だな」
このように伝えると
「兄貴冗談じゃない、兄貴が生前に贈与を受けた1,000万円もその対象になる」
といって(父の残した財産3,000万円+生前に贈与を受けた1,000万円)×1/4=1,000万円を主張しました。
「なぜ・・こんな主張をされるのだろう」
長男は知り合いの専門家に尋ねると専門家はこのように答えました
「あなたが生前に贈与を受けた1,000万円は特別受益に該当する」
「この特別受益は相続財産と同様、遺留分の計算対象財産になる」
とのことでした。
長男はがっかりし、次男に1,000万円の財産を渡しました。
【孫に贈与した場合の遺留分】
もし、この1,000万円の生前贈与を長男の子(Cさんの孫)が受けていたらどうなったでしょうか。
孫は、法定相続人に該当しません。
そうなると、孫が受けた贈与は、相続人が権利を主張できる財産でなくなります。
よって、原則遺留分の対象から外れることになります。
その結果、次男が主張できる遺留分は3,000万円×1/4=750万円になります。
このように、孫に対し、生前贈与をした場合、遺留分を抑える効果を得ることが出来ます。
ただし、「相続開始前1年以内に行われた贈与」や「あきらかに遺留分を害することを目的としてなされた贈与(あまりにも多額の贈与)」などは上記の対象にはなりません。(つまり、遺留分の対象になってしまいます)
その点注意が必要です。
詳しくは当法人グループの弁護士法人(朝日弁護士法人)へお問い合わせください。
(文責:代表社員税理士 小竹 勝)