◆ 建物だけを法人に移すと思わぬ税金が課される? ◆
Q:所得税節税のために、建物だけを法人に移すと借地権認定課税があるって聞いたけど
A:これを防止するために、ある届出が必要だよ
【不動産の法人化にて節税】
Aさんは、父より相続にて取得した土地の上に、アパートを有していました。
このアパートはかなり高い家賃設定でしたが、駅近で立地も良く、常に満室の状態でした。
そのため、高所得を得ることが出来るのですが、それ故、所得税の負担も相当額ありました。
「この税金、なんとかならないか」と悩んでいたところ、知人より以下のようなアドバイスを受けました。
(1)個人にかかる所得税は超過累進税率により所得が高ければ高いほど高税率の所得税が課される。
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(2)一方で、法人税は超過累進税率という考え方が殆ど無く、所得が高くても所得税のような高税率の課税はされない。
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(3)よって、アパートを法人化し、法人に所得を移した場合、相当の節税が期待できる。
【建物だけを法人化】
「なるほど」Aさんは早速、アパートとその敷地を法人に移そうと考えました。
そうしたところ知人より「移すのは建物だけ」とのアドバイスを受けました。
その理由は下記とのこと・・
(1)不動産を法人に移すと、譲渡所得について譲渡所得税等が課される。
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(2)相続にて取得した土地については、ほとんどの場合、売価の5%しか取得費を認められない。
よって譲渡費用を考慮しない場合、売価の95%が譲渡所得となり、相当な税金が課される。
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(3)一方、自身で取得した建物については、相当の取得費があるため、相続にて取得した土地に比較して譲渡所得を抑えることができる。
故に、法人に譲渡するのは譲渡所得が抑えられている建物だけに留めるべき。
このアドバイスを受け、Aさんは建物だけを法人に譲渡しました。
【借地権が法人に無償で移ったと認定される?】
建物だけを法人に移したAさんはご満悦でした。
(1)家賃は、土地所有者ではなく、建物所有者に入ってくる。
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(2)その建物は法人が所有している。
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(3)だから法人の所得になる。
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(4)法人には、個人のような高い超過累進税率は無い。
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(5)だから、税負担は重たくない。
「知人のアドバイスどおりにして本当によかった」と思っていたところ、その知人より連絡を受けました。
「Aさん、そーえば、税務署に届出はしましたか」
「届出って?何もしていないけど」と伝えたところ、知人は慌てて「早く届出をした方がよい」と告げました。
「一体何の届出」と聞くと、知人は「●●●●(以下に記載)の届出書」と答え、これが無いと、法人に大きな税金が課されてしまうので、なるべく早く提出するようにと念を押されました。
知人の説明によると以下のようなことでした。
(1)土地には利用権と所有権という2つの権利により構成される。
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(2)この土地は個人のモノで、故に個人に所有権があるが、この土地を利用しているのは、建物を有する法人である。
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(3)よって、利用権は法人にある。
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(4)この利用権を借地権といい、現在の状態は、借地権が法人に帰属するカタチになっている。
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(5)通常、借地権を有するためには、一定の対価を払う。
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(6)しかし、法人は、Aさんに対しこの対価を支払っていない。
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(7)このことは、法人が、Aさんの借地権をタダで利用していることになる。
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(8)タダ利用している法人は借地権を無償で取得した(=得をした)と認定され、この得相当額に法人税が課されてしまう。
「そんな税金を課されては困る」Aさんは驚きを隠せませんでした。
「だから、届出が必要なんだよ」「そうすれば、こんな税金は課されない」と知人は言い、その届出書の名前を教えてくれました。
【無償返還届】
その名は「無償返還届出書」
この届出書は次のような内容でした。
(1)建物所有者は、土地の所有者が「建物取り壊し更地にして土地を返してくれ」と言われたら借地権などを主張せず、土地を返却しなければならない。
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(2)つまり「借地権など存在しない」ということを土地の所有者と土地の利用者の双方で認めるモノ
このようなことであれば、税務署は、法人がタダで借地権を取得した(得をした)とみなすことが無く、課税もしないとのこと。
これを聞いたAさんは、急いで「無償返還届」を税務署に提出しました。
不動産の法人化を検討している方は、是非注意して下さいね。
(文責:代表社員税理士 小竹 勝)