・令和2年度相続税の税務調査の状況
令和3年12月、国税庁より令和2事務年度(令和2年7月~令和3年6月)における相続税の調査等の状況が発表されました。その発表資料によると、令和2事務年度の実地調査件数は5,106件で、対前事務年度比48%となっており、実地調査の件数自体が大幅に減っていることがわかります。
一方で、実地調査1件当たりの追徴税額は943万円(対前事務年度比で147.3%)となり、過去10年間で最高の数字となりました。相続税の実地調査件数自体は減少していますが、大口・悪質な不正が見込まれる事案に絞って調査が行われていると言えるでしょう。
しかし「相続税の調査が減っている」とは一概に言えないようです。令和2事務年度の「簡易な接触」件数は13,634件となっており、対事務年度比は157.9%と増加しています。「簡易な接触」とは、税務署から納税者への、「文書・電話による連絡」又は「来署依頼からの面接により申告漏れ、計算誤り等がある申告を是正する」などの接触のことを言います。
新型コロナウィルスの影響により、調査官が実際に相続人の自宅等に訪問する実地調査の件数は減少していますが、文書や電話により簡易的に行う調査件数は増加していることが分かります。今後も、新型コロナの影響が長引けば、文書や電話による簡易的な調査件数が更に増加していくことも予想されます。
・税務調査の目的とは?
そもそも税務調査はなぜ行われるのでしょうか?相続税は申告納税方式を採っています。申告納税方式とは、納税者が自分で税金を計算して申告・納税する制度のことです。
このため、その申告内容が正しいかどうかを確認する作業が必要になります。その作業が税務調査であり、適正公平な課税に資することを目的としています。
では、実際に税務調査はどのような流れで行われるのでしょうか?以下、午前と午後に分けて税務調査の実態をご紹介します。
-相続税の税務調査(午前編)-
多くの場合、相続税の税務調査は丸一日かけて行われます。午前中は被相続人が亡くなられたときの状況などを中心に聴き取り調査が行われます。具体的には以下のような事項です。
・被相続人の生前の職業や住所の移転状況 ・被相続人の財産管理の状況 ・被相続人の亡くなられたときの状況 ・被相続人の取引銀行や取引証券会社 ・被相続人から相続人等への生前贈与の有無 等 |
これらの質問は「どのように財産を形成したのか」、「住所地以外に取引金融機関がないか」、などを確認するために行われます。
-相続税の税務調査(午後編)-
昼食休憩をはさみ、午後になると、通帳や印鑑などの現物確認調査が行われます。調査官から財産の保管場所を見せてくださいと依頼されることもあります。ときには被相続人の通帳を確認する中で、不明な出金の使途について確認されることもあります。通帳の現物確認をしながら、通帳にメモ書きがあれば、そのメモ書きの内容についても細かく見られます。
-税務調査で見られるポイントは?-
近年は名義預金の有無が調査での最重要ポイントになっています。
名義預金とは、「預金名義」が被相続人以外の名前(例えば配偶者、子供、孫など)になっていても、金銭の原資が被相続人であり、かつ通帳や印鑑の管理者が被相続人である場合に、実質的に被相続人の預金である、とみなされるものを言います。名義預金であるとみなされた場合、被相続人の財産として相続財産に組み込まれることになります。
・おわりに
朝日税理士法人では、税務調査も見据えた相続税申告書の作成をしております。相続税申告や、税務調査についてご不安なことがありましたら、ぜひご相談ください。
(文責:飯田蓮司)