属人的株式とは
柔軟な会社経営、事業承継、資金調達等を行う手法の一つとして、属人的株式が活用されています。
今回は、この属人的株式についてご紹介いたします。
1.概要
非公開会社(株式の全部について譲渡制限の定めがある株式会社のことです。)においては、株主の持ち株数にかかわらず、以下の3つの権利に関する事項につき、「株主ごと」に異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます(会社法第109条2項)。⇒これを属人的株式の定めといいます。
①剰余金の配当を受ける権利
②残余財産の分配を受ける権利
③株主総会における議決権
会社法は原則として、株式会社において株主をその所有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うこととしていますが、非公開会社では株主の異動が少なく、株主相互の関係が緊密であることが多いため、株主ごとに異なる取扱いをすることが認められています。
2.特徴
(1)自由度が高い
属人的株式は、定める内容の自由度が高く、会社や株主の状況に応じて、例えば、以下のように柔軟に内容を定めることができます。
・株主Aは 1株につき100個の議決権を有する。
・株主Bは議決権を有しない。
・剰余金の配当を行うときは、株主Cに対し、他の株主に先立ち、株式1株につき、金100円を配当する。
・残余財産を分配するときは、株主Dに対し、他の株主に先立ち、株式1株につき、株式1株の払込金額及び未払累積配当金の合計額を金銭により配当する。
(2)導入手続
属人的株式は、定款変更のみで導入することができ、その内容を登記する必要がありません。また、登記事項ではないことから、第三者にその内容を知られることもありません。
(3)株主総会の決議要件が厳しい
(2)の定款変更の決議要件は、「総株主の頭数人数の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上の承認」となります。属人的株式の定めは、株主の権利に重大な影響を及ぼすものであるため、通常の株主総会の決議よりも要件が厳しく設定されています。
3.活用例(会社の発行済株式総数は100株とします。)
(1)事業承継、相続税対策
事業承継、相続税対策として、会社の株価が低い間に子供に株式を生前贈与したいが、経営権は手許に残しておきたい場合
<定款記載例>
株主A(オーナー社長)は、その保有する株式1株につき300個の議決権を有するものとする。
→上記の属人的株式を定めたうえで、子供に99株贈与します。
これにより、会社の議決権399個のうち300個をオーナー社長が持つことになるため、経営権をオーナー社長のもとに残しながら、株式を次世代に移すことができます。
(2)資金調達
経営には関心がなく、安定的な配当収入を望む出資者から資金調達をする場合
<定款記載例>
1項 株主A(出資者)は、議決権を有しないものとする。
2項 当会社は、剰余金の配当を行うときは、株主Aに対し、他の株主に先立ち、株式1株につき、金100円を配当する。
→出資者に株式を発行し、同時に上記の属人的株式を定めます。
これにより、会社は、経営権に影響を及ぼすことなく、株式を発行して資金調達をすることができ、出資者は、その要望に沿った形で株主になることができます。
(3)危機管理
オーナー社長が認知症などで判断能力を喪失するおそれがある場合
<定款記載例>
株主A(副社長)は、株主B(オーナー社長)に下記の事由が生じている間に限り、その保有する株式1株につき 100 個の議決権を有するものとする。
①認知症、病気、事故、精神上の障害による判断能力の喪失
②行方不明
③その他株主総会に出席して議決権を行使することができない事由
→事前に副社長に1株譲渡し、上記の属人的株式を定めておきます。
これにより、オーナー社長が判断能力を喪失した場合であっても、副社長により株主
総会を開催でき、会社経営を円滑に遂行することが可能となります。
(朝日司法書士法人 高橋 真人)