◆ 息子が親孝行すると税がかかる? ◆
Q:息子が父名義の建物をリフォームすると税がかかるってホントなの
A:親のためにするリフォームになってしまうので、贈与税が課されるみたいだよ
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【出来た息子なのに、贈与税が課される】
Aさんは息子家族と一緒に住んでいました。
その建物は、Aさんが現役の際に購入、35年経過しています。
「この建物も古くなったから、建替えようか」と考えていましたが、そうなるとコストがかかる・・そこで、リフォームで対応し、コストを抑えることにしました。
それでも、その費用は1000万円ほどになります。
「1000万円か・・・かなりかかるな」とAさんが考えていたところ
息子が「親父、その費用俺がだすよ」と申し出てくれました。
聞くと、リフォームローンとかで銀行から長期で借りることが出来るとのこと
「なんて孝行息子なんだろう」Aさんは、嬉しくてたまりませんでした。
その話を知人の税理士に話したところ
「それは良かったですね。出来た息子さんですね」とまるで自身のことの様に喜んでくれたのも束の間、少し困った顔をして次のようなことを言いました。
「でも、それをすると、Aさん、あなたに贈与税が課されてしまいますよ」
【贈与税が課されてしまう理由】
・Aさん:「どうして!?孝行息子がこんなにイイことをしてくれるのに、何故?!税金なんかが課されるのですか」
・税理士「リフォームをすることにより、建物の価値が上がりますよね」
・Aさん「そうです、きれいになったり耐震工事をしたりして丈夫になるから価値は上がるよ」
・税理士「その建物は誰のものですか」
・Aさん「建物は、私の名義だけど」
・税理士「そうですね、Aさんのものですね。そして、その価値を上げたのは、息子さんのお金ですね。」
「ということは、息子さんが払ったお金は、Aさんの建物の価値を上げるた
めの贈り物のために使ったことになるので、これは息子さんからAさんへの贈与に該当するのですよ」
・Aさん「確かに息子の金で価値が上がるけど、何とか贈与にならない方法はないでしょうか」
Aさんが尋ねると、税理士は次の方法を教えてくれました。
【贈与税を防止する方法その1】
リフォームする前にその建物をAさんから息子へ贈与します。
そうすることで、建物は息子のものになります。
息子自身の建物に、息子の資金でリフォームをすれば、(そのリフォームについては)贈与の問題は生じません。
一方でリフォーム前に、建物を息子に贈与しているので、これについて贈与税の問題がありますが、この例の場合、下記の理由によりほぼ心配はないと考えます。
まず、皆様ご承知のとおり、贈与税の基礎控除は年110万円です。
よって、贈与する建物の評価が110万円以上であれば、贈与税は課されます。
しかし、築35年も経過している場合、建物の評価はかなり低くなっているケースがほとんどです。
もし、築35年経過した建物の評価が110万円以下であれば、リフォーム前の建物の贈与については、贈与税が課されません。
仮に、110万円を超えたとしても、35年経過した建物の評価は数百万円に留まると解されるため、先のリフォーム代金1000万円に課されるような規模の贈与税とはなりにくいと思われます。
よって、父の名義のままにした場合におけるリフォーム代にかかる贈与税よりも、息子に建物を贈与した方が、税金を抑えることができます。
【贈与税を防止する方法その2】
父から子への建物の贈与について相続税精算課税という方式で贈与をすれば、恐らく贈与税の心配は無くなると思います。
その理由は、この方式の贈与にかかる基礎控除は、通常の贈与の基礎控除額110万円の20倍以上である2500万円であるためです。
一般的な自宅建物であれば、その評価額は基礎控除額(2500万円)の範囲で収まると考えられます。
そのため贈与税の心配はほぼ無いと思われます。
【贈与税を防止する方法その3】
仮にリフォーム前の建物の評価を500万円とし、この建物に対し息子が1000万円かけてリフォームした場合、単純計算でリフォームの建物価値は1500万円になります。
(算式)
(1)リフォーム前の建物評価:500万円
(2)リフォーム費用:1000万円
(3)合計:(1)500万円+(2)1000万円=1500万円
この1500万円に対し、息子は2/3の1000万円負担していることになります。
(算式)
(4)息子が負担するリフォーム費用:1000万円
(5)リフォーム前の建物評価:500万円+リフォーム費用1000万円=1500万円
(6)上記(5)1500万円のうち、(4)息子の負担額1000万円の割合:
(4)1000万円/(5)1500万円=2/3(息子の負担割合)
息子が2/3負担しているので、その分を息子の名義に変更します。
つまり、100%父の名義であった建物のうち2/3を息子の名義にします。
そうすると、息子自身は、1000万円を投じた分、持分を得ることになるので、このリフォーム費用は父に対する贈り物ではなくなります。
これにより、贈与という現象はなくなり、贈与税の問題は解消されます。
【その3の場合の注意点】
【その1】と【その2】の方法は、事前に建物の名義を父から息子へ移しておく必要があります。
一方、【その3】の方法は、リフォームをしてしまった後でも、実施できる方法なので、対処方法として使えます。
ただ、この方法は、息子にしてもらったリフォームに対する対価として、持分を息子に譲ることになります。
この行為は、税務上「譲渡」に該当します。
譲渡を行った場合、譲渡をした側には譲渡所得税が課される場合があります。
上記【その3】の例の場合、築35年も経過しているので、建物の原価(取得費=もともと取得金額や建築金額から時の経過による減価償却費を引いた残りの額)はほぼ0と解されます。
そうなると、原価(取得費)0円のものをリフォーム費用1000万円で売ったことになるので、丸々1000万円が譲渡にかかる利益になります。
そうなると、父には相当の譲渡所得税が課されてしまいます。
そこで【その3】の方法は、築年数がそれほど経過せず(減価償却がそれほど進んでいない)原価(取得費)がある程度ある物件で利用することをお勧めします。
その理由は、原価(取得費)があることで、譲渡にかかる利益を抑えることができ、譲渡所得税を抑えることができるためです。
このような点に注意して利用してください。
【まとめ】
息子さんが親のこと、建物のことを思い、リフォーム資金を負担してくれる・・
こんなに美しく良い話なのに、贈与税を課するなんで、税って本当に非情ですね。
でも、これに対し、いくつかの対策(方法)を取ることで、税の負担を無くしたり抑えたりすることができます。
参考にしていただければ幸いです。
(文責:社員税理士 小竹 勝)