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朝日税理士法人のブログを掲載します。

◆ ふるさと納税の現状にイエローカード! ◆

2023年7月10日 BLOG

◆ ふるさと納税の現状にイエローカード! ◆

 

Q:10月からふるさと納税の返礼品にかかるルール等が変更されるよ

 

A:行き過ぎた返礼品競争にストップをかけ、この制度を正しい方向に是正する狙いがあるようだよ

 

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【イエローカード】

・アナウンサー:「おっーと、ここでイエローカードだ」「各チームがそれぞれ『イケイケ』の(攻めの)時間帯であったので、ブレーキを掛けられた感じですね」

・解説者:「仕方ありませんね、かなり行き過ぎたプレーが目立ってましたから」

・アナウンサー:「行き過ぎるプレーとは具体的にはどのようなモノですか」

・解説者:「そうですね、例えば・・・

  1. 原産は、他のチーム産であるにも拘わらず、これを自分のチームでちょっと加工しただけの『自分のチーム産品です』となりすますプレーだったり、
  2. ポータルサイト企画会社に支払う費用負担などが加わり、受け取る寄付に対する経費比率が50%ギリギリに迫るような『経費を沢山使っています』というプレーだったり、なりふり構わないプレーが年々目立っていますね」

・アナウンサー:「そうですか、そんなに行き過ぎるプレーが多くなっているのですか?」「ところで、そもそも、この試合は何というモノなのでしょうか」

・解説者:「あっ、そうですね。まだ視聴者の皆さんに肝心な名前をお伝えしていませんでしたね」

・アナウンサー:「では、ここで発表していただきます」

・解説者:「それでは、発表します。この試合名は『ふるさと納税制度』というモノで、試合をしている各チームは『全国の市町村』になります」

 

 

【3つの変更】

このような行き過ぎる現状をなんとか是正しようと総務省はこの程、ふるさと納税制度のルールを10月から変更すると発表しました。

その項目は下記の3つです。

(1)返礼品に地場産品基準を導入する。

(2)地元産が全体価格の70%以上を占めなければならない。

(3)返礼品の経費率を5割以下に引き下げる。

 

 

【(1)と(2)のルールを設ける理由】

ふるさと納税の返礼品は、地元経済の活性化を目的とすることから「都道府県等の区域内において生産された物品又は提供される役務その他これらに類するモノ」というルールがあります。

しかし、近年、下記のような行き過ぎる例が散見されていました。

それを分かり易く説明するために、料理バージョン形式にてご案内します。

 

♪~♪(おなじみの料理番組のイントロ)♪~♪

(一品目:地域熟成肉の作り方)

・司会者:「本日は、超簡単に出来るふるさと納税返戻金の作り方をご紹介します」

     「先生お願いします」

・料理家:「はい、よろしくお願いします」

・司会者:「まずは何を準備しますか」

・料理家:「まず海外から輸入したお肉の塊を準備します」

・司会者:「これをどのようにするのですか」

・料理家:「この地域内にある冷蔵倉庫にそのまま保管します」

・司会者:「えっ?保管するだけですか」

・料理家:「はい、そのまま保管するだけです」

・司会者:「何か加工とか調理はしないのですか」

・料理家:「しませんね。そのまま保管です」

・司会者:「返礼品にするためには、この地域における生産物にする必要があるので、何等かの加工等が必要だと思うのですが」

・料理家:「ですから『保管』をすることで、この地域内で『熟成』をしているコトにするのです」

・司会者:「そうなんですか・・(唖然)」

・料理家:「はい、出来上がりました。この地域の倉庫でちょっと保管するだけで、簡単につくれる地域特産熟成肉の出来上がりです」

 

(二品目:地元産家電製品)

・司会者:「(汗)本当に簡単にできるのですね(まだ唖然状態)」

     「それでは、先生、二品目をお願いします」

・料理家:「はい、二品目は、地元産電化製品のご案内です」

・司会者:「地元産・・と言いましても、この地域には電化製品の工場は無いのですが」

・料理家:「そうですね、ありませんね。そこで、地域内の家電量販店より、電化製品を適当に見つくろいます」

・司会者:「えっ・・お店で買うんですか?」

・料理家:「はい、まーあまり細かいことは気になさらないでください」

・司会者:「細かいことと・・申されましても・・(唖然)」

     「先生、次はどのようにするのですか」

・料理家:「次に、地元産のハンドタオルを準備します」

・司会者:「確かに、このハンドタオルは、この地域の特産です」

     「これをどうするのですか」

・料理家:「はい、これを先ほどの家電製品と一緒に梱包します」

     「そうすることで『電化製品付き地元産タオルセット』の出来上がりです」

     「返礼品にピッタリですよ」

・司会者:「えっ・・量販店で買った電化製品に地元産のハンドタオルをセットするだけで、地元産返礼品になるのですか」

・料理家:「そうです、簡単でしょ。皆様もどうぞお試し下さい」

 

このようなことが多発したため、

(1)返礼品に地場産品基準を導入する

→このような基準を設け、海外や他県で取得した生産物を、地元で簡単に加工する

(例:熟成と称して地元で保管だけする)ことで、地元産返礼品とすることを防止する

(2)地元産が全体価格の70%以上を占めなければならない

→このような基準を設け、高価な家電製品に、地元産の安い製品を組み合わせるだけで、地元産返礼品とすることを防止するといったルールを設けることにしました。

 

このルールにより、これまで人気のあった「熟成肉」や「精米」などの加工品は、返礼品にすることが出来にくい状況になると思われます。

また、多くの家電製品も返礼品としての姿を消すと思われます。

 

【(3)のルールを設ける理由】

ふるさと納税には、実に多くの種類の経費が使われています。

・返礼品自体の費用

・送料

・ポータルサイト手数料

・委託費

・その他経費

ひと頃には、その経費は寄付額の60%を超える自治体もあり、寄付を受けても、実際に残るのは寄付額の4割という状況でした。

「4割しか残らない(6割は経費で消える)のはとんでもない」ということで「5割基準」というルールが設けられ「せめて寄付の半分は自治体の歳入になるように」ということになりました。

これを受け、各自治体は、返礼品の額を引き下げることなどを実施し、この5割基準をクリアしてきました。

 

ところが、この度、再度「5割基準」というルールが見直されました。

それは、経費項目の追加です。

追加されたのは主に下記の2点です。

・ワンストップ納税手続きにかかる費用

・領収書発行費用

 

このうち「ワンストップ納税」について説明します。

ふるさと納税にかかる控除(ふるさと納税にかかる寄付者の税制優遇)を受けるためには、確定申告という手続きが必要になります。

これは、所得税の計算を年末調整だけで済ませるサラリーマンにとっては、面倒な手続きになりますし、税務署側においても、確定申告件数が増え、行政事務負担の増加につながります。

そこで「ワンストップ納税」という制度が導入されました。

これは、ふるさと納税を行った際、その寄付者が所在する市町村側で、控除や還付手続をしてくれ、確定申告の手間を省くことが出来る制度です。

この制度が2015年に導入されたことにより、ふるさと納税の利用者は爆発的に増加しました。

さて、この制度は、前述したとおり、本来寄付者が確定申告で行う控除手続きを、市町村側で行うものです。

 

この手続きには人件費などの経費が生じます。

この経費が、これまでの50%基準の経費に含まれていませんでした。

それと、寄付者に交付する領収書発行経費も含まれていませんでした。

その経費の合計は、寄付額の3%程度と言われています。

よって、この経費が加わると、多くの市町村は、50%基準をクリアできなくなると言われています。

そのため、更なる返礼品の引き下げにつながるのではないかと言われています。

 

 

【本来の目的に戻れるか】

ふるさと納税のもともとの目的は、ふるさと納税という寄付をすることで「自治体を応援する」モノであります。

しかし、ポータルサイトにおいて魅力的な返礼品が数多く掲載される(ネット上で閲覧できる)ことにより、返礼品選びだけが目的という現状になっております。

それは、各自治体が手を変え品を変え、様々な返礼品を企画開発しているためです。

それ故、返礼品の魅力度競争が激化し、返礼品だけが目的となり、地域を応援するという趣旨が完全に薄れてしまっています。

今回はこの返礼品競争の激化にイエローカードを出したものです。

このイエローカードにより、ふるさと納税を本来の目的達成の制度として是正することができるか?そのことが今回の改正で注目されています。

 

(文責:社員税理士  小竹 勝)

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