生前贈与すると相続時の特例がつかえなくなる場合があります。
令和6年以降、相続時精算課税に基礎控除が導入され相続時精算課税の使い勝手が良くなり、今後相続時精算課税における特定贈与の活用が見込まれます。そこで、生前贈与をする際には、相続税額と贈与税額を比較して有利・不利を判定するだけではなく、贈与財産に掛かる相続税の減額特例についても気を配って贈与すべきか否か判断してください。
相続時精算課税に掛かる特定贈与財産は次の様に取り扱われます。生前贈与によって財産を取得して相続時精算課税を適用した場合、相続時の相続財産に贈与時の贈与財産の価額を加算します。したがって、贈与した場合もしなかった場合も同様に相続税は課されます。両者の課税上の大きな違いは、贈与した場合には相続税の計算上、小規模宅地等の特例(以下「小宅特例」という)を適用できないことです。贈与されないで相続人が相続で取得した場合は、その他の要件を満たしていれば小宅特例の適用を受けることが出来ます。
この小宅特例は、相続又は遺贈により被相続人等の居住用又は事業用の宅地等を取得した場合に、一定の限度面積まで、相続税の課税価格を最大80%減額できる制度ですが、小宅特例の適用対象となる特例対象宅地等には、被相続人から贈与により取得した土地等を含みません。小宅特例による評価減額は首都圏では数千万円に及び判断を誤ると節税どころか増税になりかねません。
また、空き家に係る譲渡特例(譲渡特例)についても、生前贈与を行った家屋等は適用対象外です。譲渡特例は、相続又は遺贈により被相続人の居住用家屋及びその敷地等を取得した相続人が、一定の譲渡を行った場合に、譲渡所得の金額から最大3,000万円の特別控除を受けられます。しかしながら生前中に贈与してしまった場合には、相続又は遺贈により取得したものとはいえないため、譲渡特例の対象外となり、譲渡特例の適用を受けることが出来なくなります。実家を相続した相続人が相続後に実家を売却するケースは良くありますが、相続税の取得費加算(譲渡所得の計算上相続税の一部を控除出来る制度)が縮小された現在、3,000万円の控除が受けられないのは厳しいですよね。
理事長 石井 孝雄