◆ 締め切り迫る(令和5年9月末) ◆
Q:病院経営が相続税で支障をきたさない措置があるみたいだよ
A:医療法人版事業承継税制だよね。その締め切りは来年の9月だよ
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【医療法人ってメリットあるね】
医療法人ってご存じですか、病院経営を個人で行うのではなく、法人組織にて行うもので、全国に5万以上あります。
皆さんのかかりつけの病院をよく見ると「医療法人○○会」といった法人名が掲載されているところが多くあろうかと思います。
何故、医療法人がこれほど多いいか・・・それは、税制面や事業運営面に多くのメリットがあるためと考えられます。
例えば、病院にかかる税率・・個人経営の場合は、所得税(住民税)が課されます。
その税率は最高で55%以上になります。一方で、法人組織の場合は、30%程度で済みます。
経営面においても、個人経営であれば、拠点を1つしか持てないが、法人経営であれば複数有することができます。
また、親から子へ病院経営を承継する際においても、個人の場合は、子が再度、許認可を得なければなりませんが、法人に場合は、法人格にて許認可を得ているので、その必要は原則ありません。
このように、とってもメリットがある医療法人ですが、ここに来てちょっと困った問題が生じています。
【持分ありの医療法人にとって相続は大きな支障】
全国に5万以上ある医療法人のうち、その大半が「持分のある医療法人」という形態になっています。
持分のある医療法人とは、株式会社でいうところの株のようなモノがある医療法人のことを言い、この株のようなモノを「持分」といいます。
日本の多くの医療法人は同族経営であり、その持分の多くは、医院長など同族の長が有しています。
持分は、病院の価値と直結しますので、その財産価値は多くの場合かなりの額になります。
そのような状態で、もし(持分の大半を有する)医院長に万が一のことが生じた場合、その相続税はとても大きな額になり、後継者である息子等にとって大きな負担となります。その負担はその後の病院経営に大きな支障を与えるかもしれません。
【持分ありの新規設立は認めない】
「病院は、国民の健康と生命を支える大事な役割を有している。そんな病院の経営が相続によって、大きな支障を受けることがあってはならん!」ということで、平成19年以降、持分のある医療法人の設立ができなくなり、その代わり「持分無し」の医療法人という新たな形態が設けられました。
この形態は、株のような「持分」というモノが無いので、例えば病院経営者に相続があっても、後継者がその経営を承継することについて相続税負担は生じません。
ただし、これは平成19年以降に設立する医療法人に限られます。
つまり、それ以前に設立された医療法人は「持分有り」のままの状態です。その数はその時点(平成19年の時点)で4万4千件弱ほどありました。
つまり、この数の医療法人が、相続税負担の危機にさらされることになります。
【移行に大きな壁が】
「新たに設立する医療法人だけではなく、既存の医療法人も、相続による支障から回避させなければならない」との考えのもと、既存の持分有りの医療法人についても、持分無しへ移行させることを検討しました。
しかし、そこに大きく立はだかったモノがありました。
それは「贈与税」でした。
■医療法人:「何故、立はだかるのですか」
■課税当局:「だって、持分有りから、無しになるということは、持分を持っている医院長などが、持分を放棄するということですよね」
■医療法人:「そうです、放棄してもらうことで、相続税リスクから回避されます」
■課税当局:「そうなると、仮に医療法人に沢山の財産がある状態で解散したときであっても、その財産は、かつて持分を持っていた医院長などに分配しなくてもよくなりますね」
■医療法人:「医院長は持分を放棄しているので、そういうことになりますね」
■課税当局:「・・ということは、分配しなくてはいけなかったことが、分配しなくてもよくなったということで、医療法人自体は得しますね」
■医療法人:「うーん・・別に得をしたい訳ではないですが、確かに得をしますね」
■課税当局:「だから、その得をする医療法人に税金を課さなければならないのです」
■医療法人:「それって・・なんとかなりませんか」
【なんとかしましょうが、なんとも残念】
「なんとかしましょう」ということで、同じ年度(平成19年)に「一定の条件をクリアすれば、上記の贈与税を課さない」という制度が導入されました。
しかし、この要件の1つは、多くの医療法人をがっかりさせるものでした。
それは「医療法人の役員は、3分の2以上を同族人以外で構成をする」というモノです。
医療法人のほとんどが、家族や親族にて経営がなされる同族経営です。医療法人の理事は6名以上と決まっていたので、4名は親族外で構成しなければならいという計算になります。そんな数を同族外、親族外で構成するというのは、多くの医療法人にとって受け入れにくいモノでした。
その証拠に、この要件が原因で、その後、平成29年までの10年間、持分無しへ移行する医療法人はほとんどありませんでした。(平成19年当時:約4万4千社弱、平成29年:4万社強)
【思い切って要件変更】
■医療法人:「全然移行が進まないじゃないですか」「非現実的な要件を設けたからですよ」
■課税当局:「確かに、持分有りの医療法人がこんなに(4万社)残っている」
「何とかしなければ」
ということで、平成29年の改正で、この3分の2要件は無くなりました。(その代わり、医療収益の8割を社会保険診療報酬する等の要件(比較的受け入れやすい要件)が加わりました)
その結果、以前と比較して、持分無しへの移行が行い易くなりました。
そのようなことから
「余計な要件(3分の2要件)は無くなった」
「だから、相続税の心配の無い持分無しへの移行は行い易くなった」
「ただ、当院の医院長は相続が差し迫った年齢でもないから、移行はもう少し先にしよう」
このようについつい考えてしまうところですが、注意が必要です。
この「3分の2要件」を問わないのは、令和5年9月までなのです。
実は、この要件緩和は時限立法だったのです。
病院経営をなさる皆さん、持分無しへの移行をお考えであれば、直ぐにでも手続きを進めてください!
朝日税理士法人はそのお手伝いをさせて頂きます。
(文責:社員税理士 小竹 勝)