◆ インボイス制度でも請求書などは無くても大丈夫? ◆
Q:インボイス導入がされたら、番号付きの請求書は必須でしょ
A:原則はそうだけど、不要なモノも結構あるよ
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【第一章:必要経費にインボイスは不要】
A子:「やっぱり、インボイス登録しようかしら」
先日、当事務所のクライアントであるA子さんより、このような電話を受けました。
A子さんは、エステサロンを個人事業主として経営しています。
年商は1千万円以下であることから、消費税は免税です。
筆者:「でも、インボイス登録すると、消費税の免税が外れてしまい、18万円程の消費税負担が生じますよ」
A子:「でもね、常連さんが『キチンとした領収書がないと経費に出来ないから困る』っていうのよ」
「うちのサロンを頻繁に利用してくれているから、無視する訳にはいかないのよ」
領収書が無いと経費にできない・・?
その言葉を聞き『もしや・・』と思い、A子さんに詳しく事情を聴きました。
そうしたところ・・・
この常連さんは、個人事業として手指のモデルをしているとのこと。
年収はA子さんと同様1千万円以下であることから消費税は免税、でもモデル事業の所得については、税理士に依頼し確定申告をしており、その税理士の指導のもと、A子さんから受けるエステ費用は、必要経費にできるとのこと。
だから、その領収書を必要としているとのこと。
A子:「ねっ・・常連さんの税理士が、領収書が必要って言っているでしょ」
「だから、インボイス番号を記載しないと、常連さんが必要経費にできる領収書が作れなくなっちゃうのよ」
「消費税の負担が生じてしまうけと、インボイス登録するしかないかしら」
筆者:「A子さん、大丈夫です。インボイス登録する必要はありません」
「常連さんが必要としているのは、所得税の計算上、経費にするための領収書です」
「所得税の経費にするためにインボイス番号は関係ありません」
A子:「えっ?・・ジャー何故、世間では『インボイス番号がないと税金の計算上、引けなくなる』って騒いでいるの?」
筆者:「それは、消費税の計算です」
「その常連さんは、A子さんと同様、消費税は免税です。免税だから消費税の申告は不要です。だから、インボイス番号が無くても大丈夫です」
A子:「そーなんだ」
「それなら安心したわ」
「テレビCMなどで、インボイス・インボイスって騒いでいるから、てっきりインボイス番号がないとあらゆる税で経費にすることや控除することが出来なくなるって
思っちゃったわよ」
読者の皆さんは、税に詳しい方も多くいらっしゃるので、インボイスは所得税には関係無いことはご承知かとは思いますが、税と普段接していない多くの方の中には、このような思い違いをなさっている方はけっして少なくないと思います。
この章のまとめ
→所得税の必要経費とする請求書や領収書にインボイス番号は不要です。
【第二章:領収書が発行されないモノは】
インボイス制度導入前も、仕入や経費について請求書や領収書の保存が無いと、消費税の計算上控除することはできませんでした。
ただ、あまり細かいモノまでだと「事務が大変だ」ということで、3万円未満のモノは「保存しなくてもイイ(その代わり帳簿にはキチンと記録してね)」という取り扱いでした。
しかし、インボイス制度導入後は、(税務署曰く)「インボイスは大事な書類だ」
「だから、これまでの取り扱いを改める」
ということで、この取り扱いは廃止されました。
「それは困る!請求書や領収書・レシートなどがそもそも無いモノはどうする!」
そんな声が上がったのでしょうか・・・いくつかのモノについては、インボイスの保管が無くても、帳簿にキチンと記載さえすれば、引き続き控除ができるようになりました。
筆者:「さて、それはどんなものでしょうか」
読者B:「電車やバスなどの料金」
筆者:「正解です」
「最近は領収書が発行される自販機がありますが、多くの方は交通系ICで乗車するから領収書などは入手できませんよね」
「但し、何でもカンでもOKということではなく、3万円未満のモノに限るとされています」
読者C:「当社は、出張にかかる旅費は『旅費精算書』だけで処理しています。日当も『精算書』で精算しています。これについては3万円以上になることがあります」
「これらについてもインボイスが必要でしょうか」
筆者:「これについては『通常必要と認められる』モノであれば、インボイスは不要です」
読者C:「通常必要と認められるって、どうやって判断するの」
筆者:「これは、所得税法基本通達というモノの基準で判断します」
「そこ(基本通達の9-3)には、会社などが、従業員に支給した旅費等について、従業員に対する所得(=給与等)ではなく会社などにおける旅費交通費などの経費であるための基準=従業員宛ての給与には該当しないという基準が記載されています」
読者C:「通達の基準と言われても解り難いな」「実務ではどのようにすればよいのかな」
筆者:「実務では、出張旅費規程などに従い適正に運用していれば、恐らく問題はないか・・と思います」
この章のまとめ
→3万円未満の公共の交通機関に係るモノや、出張旅費規程等などによる旅費や日当等は、インボイスは不要です。
【第三章:そもそも領収書が無いモノは?】
読者Ⅾ:「当社は建設業で、特に今年のような暑い夏の盛りに、現場職員の体調を気遣い、自販機にて飲料水などを沢山購入したけど、これも領収書が出ないよね」
「これも、領収書無しでOKなの」
筆者:「はいOKです。帳簿の記載だけでOKですが、その場合、自販機の場所の記載が必要です」
読者Ⅾ:「場所?・・そんなこと言われても、いちいち何丁目何番地なんて確認できないよ」
筆者:「そこまで細かくなくて大丈夫です。○○市○○町程度でOKです」
読者D:「そっか、それ位だったら書けるかな」
この章のまとめ
→「自販機の所在は〇〇市〇〇町程度の記載があれば、インボイスは不要です。」
【第四章:自動改札はOKなのに自動ゲートはNGなの?】
読者E:「公共交通機関がOKであれば、ETCも当然OKでしょ」
「だって、ETCを使った場合、料金所はそのまま通過なので、領収書はもらえないからね」
筆者:「そうですね、そのように思ってしまいますよね」
「でも、ETCはダメなんです」
読者E:「えっ?ダメなの!」
「だって、ETCで、料金ゲートを自動で通過するのって、交通系ICで自動改札を通るのと同じじゃん」
筆者:「言われてみれば、同じですね。でもダメなんです」
読者E:「ダメなの・・しかた無いな・・」
「だったら、あとから送ってくるクレジット明細を保存しておけばイイの」
筆者:「それもダメなんですよ」
読者E:「何で?クレジット明細には、ETCの利用日付とか、利用区間とか、料金とかキチンと記載されているよ」
筆者:「でも、クレジット明細にはインボイス番号の記載がないし、それとそもそも、サービスを提供した高速道路会社などが発行したモノではないので、インボイスにはならないのです」
読者E:「じゃーどうすれば、イイの」
筆者:「高速道路等を利用したあとに、ネットなどでダウンロードできる利用証明書が必要なんですよ」
読者E:「えっ!利用証明書をネットからダウンロードしなくてはイケナイの!」
「ちょっと勘弁してよ。当社は運送業で、ほぼ毎日沢山の車両がETCにて高速道路を使っているんだよ」
「これをイチイチ全部ダウンロードなんて・・・膨大な作業量だよ!」
筆者:「ぜっ・・全部じゃなくて一枚、一枚で結構です」
読者E:「ん?・・・今、何て言いました?」
筆者:「いち・・・一枚と・・言いました」
読者E:「どういうこと?詳しく説明して」
筆者:「カード利用明細に日付や区間・金額など、個々の道路利用が判明できる記載があれば、その明細に、高速道路会社ごとに任意で選んだ利用証明書をひとつだけダウンロードして併せて保存すればOKです」
読者E:「なるほど、カード明細は毎月発行されるから、毎回任意に1枚だけ利用明細をダウンロードして添付すればイイのか」
「当社は、NEXCO東日本と首都高速を毎月利用するから、例えばそれぞれの高速道路会社の月初め1番目の利用証明書を各1枚(計2枚)だけ毎月ダウンロードすればイイんだな。それなら手間はかからない」
筆者:「あの・・・毎月でなくてイイんです」
読者E:「えっ・・毎月でなくてイイの? じゃー年に1回?」
筆者:「年に1回でなくてイイんです」「本当に、最初の1回だけでイイんです」
「インボイス制度が導入された令和5年10月1日以降、一回だけダウンロードして保存すればOKなんです」
読者E:「そうなの・・・そこまで簡素化するなら、いっそのことダウンロードをしなくても良いのでは?」
筆者:「確かに、ここまで簡素化するとそのように思えてしまいますね」
「でも、そうなると、カード明細そのものを認めることになるので、当局はそれを避けたいのではないでしょうか」
「そうやって考えると、このたった1枚の利用証明書にどれほどの意味があるのか・・
この制度を決めた国の偉い人達は、一体何に拘っているのか・・ってカンジですね」
この章のまとめ
→ETC利用証明書はたった1枚だけでOK
【おまけ】
公共の交通機関とか、たった1枚のETC利用証明書とか、出張旅費規程とか・・
そんなこと一切関係なく、1万円未満であれば、インボイスの保管がなくても帳簿の記載だけでOK・・という特例があります。
これを少額特例と言います。
「こんな便利な制度、当社も使いたい!」と皆さん思ってしまいますよね・・
でもこれは、一定の売上高以下の事業者の事務負担軽減のために設けられた制度です。
だから、全ての事業者に認められている制度では無いのです。
(小規模な事業者に対する事務負担軽減措置のようなモノです)
よってずっと認められる訳ではなく令和11年9月30日までの経過措置となります。
(文責:社員税理士 小竹 勝)