◆ インボイス制度導入で主役が変るハズ? ◆
Q:インボイス方式で復活する計算方式はあるって聞いたけど
A:積上げ法式だね。でも残念ながら、諸処の理由で脇役に留まるかも
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【ついに来た、俺の出番】
「やっと、俺の時代がやって来たか」
「随分待たされたが、これからは奴の好きなようにはさせない」
「俺がメインで奴が、サブだということを思い知らせてやる」
男は、19年ぶりの復活に気持ちを高ぶらせながらも、落ち着いた眼で、これまでの時の流れを感じていました。
「あの頃は、商品だけの値段を表示してもよかった」
「だから、俺のような計算方法も認められていた」
「でも、19年前のあの日『税を含んだ総額で表示する=(税込み表示・・つまりは、個々の消費税額を解り難く表示する方式)』なんてことになったから、個々の消費税を積み上げて計算する俺は封印されちまったんだ」
「でも、今回ばかりは、俺が必要なはずだ。だって時代が大きく変わるからな」
「そうなれば、俺がメインで、奴は隅っこに追いやれる」「これは愉快だ」
男は、苦節19年の思いをかみしめ静かに笑いました。
【俺の正体は・・】
「あーぁ俺の正体?」「読者の皆さんはご存じかな」
「申し遅れたが、俺の名前は、積み上げ方式」
「役割は、消費税の計算方式さ」
「平成16年4月に(旧消費税法施行規則第22条第1項が)廃止により、表舞台には立てなくなったが、今回の大きな潮目の変化で、復活するのさ」
「大きな潮目の変化って何かって?」
「そりゃーあれだよ、来月から始まる『インボイス方式』 だよ」
「インボイスが導入されると、インボイスに基づき消費税を計算することになるんだよ」
「だから、それには、俺のような『積み上げ方式』が必要になるんだよ」
「えっ?話が解り難い?」「仕方ないな。ややこしい話だから、ここから先は、筆者に任せるよ」
【そもそもインボイス制度とは】
それでは、ここからは筆者がご案内させて頂きます。
最近TVコマーシャルなどで、経理事務ソフト系の「インボイス」に関するものが頻繁に放映されています。
「●●奉行にお任せあれ~っ」「楽々●●」など・・おなじみのCMです。
また、ニュースやネットの記事では「インボイス制度の導入で、フリーランスや声優が廃業する」などと報じられています。
そもそも、このインボイス制度とは一体どういうものなのか、下記の例で説明致します。
事業者Aは、ある商品を仕入先より6,000円で仕入れ、店頭にて10,000円で売っていました。
10,000円で売るので、お客様より1,000円の消費税を預かります。
一方で、6,000円で仕入れているので、仕入先に600円の消費税を支払っています。
よって、Aは、1,000円から仕入先に支払った600円を控除した400円を納税していました。
このように、お客様から預かった消費税から、仕入先に支払った消費税を控除して納税をします。
ところが、インボイス制度導入後は、この支払った消費税を控除するために、一定のルールが設けられました。
それは「仕入先などから受け取る請求書等に仕入先のインボイス番号の記載が無いと、控除することが出来ない」というものです。
インボイス番号は、消費税を申告する事業者でないと発行する請求書に記載することができません。
よって、フリーランスや声優など消費税を申告する規模の売上高が無い免税に該当する事業者は、それを記載した請求書が発行できなくなります。
そうなると「お宅の請求書にはインボイス番号が無いから、お宅に支払った消費税をこちら側で引くことができない」「それは、困るから、取引を見直させて欲しい」
などと、得意先から言われてしまう可能性があります。
「それは、取引に支障が出る」「よって番号を記載できるようにしよう」ということで・・
このような事業者がインボイス番号を記載するためには、税務署に対し「免税業者なんだけど、あえて消費税を納付します(申告します)ので、記載できるように様にして下さい」という届出をする必要があります。
でもそうなると、これまで免税であった消費税の負担が生じてしまいます。
インボイス番号を取得しなければ「取引に支障が出る」
インボイス番号を取得すると「税負担が生じる」
どちらを選択しても経営や資金繰りに大きな影響が生じてしまうので、フリーランスや声優などを行う事業者は困ってしまうので、このような報道がなされているのです。
さて、インボイス制度の説明が終わったところで、本題に入りたいと思います。
今回の税務ミニ話の冒頭で、彼=『積み上げ方式』が話した・・
(1) 「やっと、俺の時代がやって来たか」の意味
(2) 「奴には好きなようにさせない」とライバル視している「奴」とは一体誰か
・・これについて、説明したいと思います。
【「俺の時代」とは?】
インボイス制度は、前述べしたとおり、フリーランスや声優などの免税事業者に対し「このまま免税だと『取引に支障が出る』という状況を目の当たりにさせて、インボイス番号を与える条件として免税を辞めさせる=消費税負担させる」ことの道具に使
われている感があります。
ただ、インボイスという制度を正しく定義するならば、それは、前述した「取引による影響」を考えさせ、フリーランスや声優を追い込む道具として使うものでは無く、インボイスの字のごとく(単純和訳「請求書」の字のごとく)
「請求書などに記載された消費税を積算して、納税する消費税を計算しましょう」という制度になります。
だから、この税額計算をするには
(1)売上の際に発行した請求書等に記載された消費税を、その発行の都度積算
(2)仕入などの際に受け取った請求書等に記載された消費税を、その受取の都度積算
(3)そして売上について積算した消費税の合計((1)の合計)から、仕入などについて積算した消費税の合計((2)の合計)を控除このような請求書の積み上げによる方法が必要になるのです。
このことから、インボイス制度の導入は、彼(積上げ法式)が、税額計算の主人公になる潮目の変化になるハズのモノなのです。
【「奴」とは?】
一方、インボイス制度が導入される前の今日において、消費税の計算はどのような方式が採用されているのでしょうか(どのような方法が主人公なのでしょうか)
それは「割り戻し方式」というモノです。
割り戻し方式とは、会計帳簿に計上された売上高の合計額に税率を乗じて消費税を計算する方式です。
例えば、税込み1100万円の売上高の場合、1100万円を110%(本体+消費税率)で割り戻し、税抜きの売上高合計1000万円に戻し、これに税率10%を乗じて100万円の消費税を計算する方式です。
この消費税から控除する仕入れにかかる消費税も同様の方法で計算します。
この方式が現在の消費税の計算方法の原則となっていることから、俺=『積上げ法式』は、『割り戻し方式』を「奴」と呼び、ライバル視しているのです。
【えっ!どうして!】
「ライバル視?・・・、何を言っているんだ筆者は・・・もはや「奴」はライバルでもなんでも無い!インボイス制度が導入されれば、奴はお払い箱さ」
「だって、インボイス制度は、請求書に記載された消費税の積算が基本中の基本なんだからな。「奴」には、それが出来ない。出来るのは俺だけだ!」
「あっはっはっはー」(高笑い)
ところが「インボイス制度導入後も、売上にかかる消費税(税額控除前の消費税)は『割り戻し方式』を原則とします」by国税庁
「えっ!何でだ!」「どうしてなんだ!」
【俺がメインにならない理由】
その理由を筆者より説明します。
例 A社とB社は、どちらも年商800万円です。
A社は1つ@8000円の商品を年間で1,000回売ります。
これにかかる消費税は@8000円×10%=800円(1回単位の消費税)
800円×1,000回=80万円
B社は1つ@8円の商品を年間で1,000,000回売ります。
これにかかる消費税は@8円×10%=0.8円→円未満切り捨て0円(1回単位の消費税)
0円×1,000,000回=0円
この2つの例の場合『積上げ法式』の計算では
A社80万円の消費税、B社0円の消費税
一方、『割り戻し方式』の計算では
A社の税込みの売上高合計は800万円+80万円=880万円だから
880万円÷110%(割り戻し)=800万円(割り戻し後の税抜き売上高)
この800万円×10%(税率)=消費税80万円
・・A社については『積上げ法式』と同じ額
B社の税込みの売上高合計は、800万円+円未満切り捨てられた消費税0円=800万円だから
800万円÷110%(割り戻し)=727万円(割り戻し後の税抜き売上高)
この727万円×10%(税率)=消費税72万円
・・B社については『積上げ法式』に比して72万円多く消費税が計算されます。
これを見た課税当局の偉い人は「おっ!『割り戻し方式』の方が、消費税を沢山得ることができる」
「これは税収にとって良いことだ」
ということで・・・
「インボイス制度が導入する手前『積上げ法式』を復活させなければイケナイ」
「ただ、この方式だと税収が減る」
「だから、これまでメインであった『割り戻し方式』を引き続き原則としながら『積上げ法式』は特例扱いにしよう」
このようなことで、売上にかかる消費税については、原則=『割り戻し方式』、特例扱い=『積み上げ方式』ということになったと解されます。
【別のところでメインにするけど】
「そんなのズルい!インボイス制度だから、俺(積み上げ方式)がメインになるべきなのに・・」(涙)
その姿を見て、税務当局の偉い人が『積み上げ方式』に声を掛けました。
「そんなに、悲しまさんな・・君だってメインになるステージを準備しているよ」
その言葉を聞いた『積み上げ方式』は、涙を拭いて税務当局に聞き返しました。
「どんなステージだ・・・」
「それは、仕入等にかかる税額計算だよ」
税務当局の偉い人が言うと、『積み上げ方式』はみるみる顔がこわばりました。
「なっ・・・何故なんだ!どうして、消費税の計算の中心である売上高のメインではなく、仕入等かかる消費税なんだ」
「うっ・・それは・・・(もごもご・・もじゃもじゃ)」偉い人は説明し難そうです。
【なんだか歪んでいるね】
そこで、筆者が変って説明します。
売上高の消費税計算で説明したとおり『積み上げ方式』で計算すると税額は少なくなります。
その理由は皆さんお察しのとおり『積み上げ方式』では円未満を都度切り捨てるからです。
これは、仕入等の消費税計算でも同じです。
仕入等にかかる消費税額は、控除する税額なので、その額が小さければ、控除する額も小さくなり、それだけ、納付する消費税が大きくなります。
これは、税収が多くなるので、課税当局としては都合が良いのです。
「実に汚い、ズルい!歪んでいる」
『積み上げ方式』はカンカンに怒っています。
その気持ち、本当に良くわかります。なんだか姑息でズルい話ですね。
(文責:社員税理士 小竹 勝)