相続税の課税方式の話しです。
現在の日本の相続税は法定相続分課税方式を採用しています。相続開始時の純資産価額から基礎控除額を差し引いた金額を各相続人が法定相続分により按分した金額に超過累進税率を適用して相続税の総額を算定します。この方式は、①遺産分割の習慣が定着していない状況下では、税務執行上、仮装分割などを防止することが困難であること、②分割容易な遺産と困難な遺産(農地、事業用資産等)との税負担が不均衡となること等を考慮して導入されました。しかし現在は状況が大分変わっています。
現行の課税方式の最大の欠点は、応能負担の原則に反することです。各相続人の相続税額は上述の通り算定された相続税の総額を財産の取得割合に応じて按分して算出します。このため、取得した財産と負担すべき相続税額の割合は相続人全員が同じです。例えば相続税の総額の負担割合が2割だとすると、1,000万円相続した相続人の相続税は200万円(2割)、2億円相続した相続人の相続税は4,000万円(2割)となり、相続により取得した財産から納税する相続税の負担割合に差がありません。そもそも超過累進税率を適用する国税には応能負担の原則があり、担税力(支払い能力)に応じて納税負担が高くなるという考え方があります。つまり、所得が高い人や財産をたくさん相続した人は税金をたくさん負担する能力(担税力)があるという考えに基づいて課税します。この応能負担の原則が機能しないのが現在の法定相続分課税方式なのです。
これに対して2023年6月に税制調査会と日本税理士連合会から遺産取得課税方式に改正すべきという提言がありました。遺産取得課税方式は贈与税課税等と同様に取得した財産の額に応じて超過累進税率を適用するので各相続人毎に応能負担の原則が機能します。ただし、相続財産が申告期限までに分割できなかった未分割申告の場合や仮装分割による租税回避の問題が残ります。
上記の他にも現行課税方式は「相続税課税は被相続人の一生涯の税負担を清算するという目的」から課税の基本を被相続人に置いているところを重視しています。それ故現行の課税方式は遺産課税方式と遺産取得課税方式の折衷案とも言えますが、税制調査会や日本税理士連合会が提言した遺産取得課税方式への改正も財務省では検討を進めています。遺産取得課税方式に改正されると、多額の相続財産を取得する予定の相続人は相続税納税資金が不足するなど、これまで検討してきた遺産分割、相続税納税対策を再度検討する必要が出てきます。
令和6年度の税制改正大綱も既に発表されていますが、今回の税制改正においては遺取得課税方式への改正は取り上げられていません。しかしながら現行法の相続税課税方式は応能負担の原則を満たさない課税方式であり、以前に比べ遺言を作成する人が増えていることや相続の際に遺産分割協議が常態化している現在においては遺産取得課税方式への改正も現実的と言えます。このように、今後の相続税課税方式の改正を含め、我が家の相続税について不安を感じたら是非、朝日税理士法人にご相談ください。
代表社員税理士 石井孝雄