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朝日税理士法人のブログを掲載します。

◆ 事前確定届出給与について ◆

2024年8月19日 BLOG

2006年に会社法が施行され、役員に対する給与と賞与が職務執行の対価として支給される役員報酬に一本化されました。これに対応して税法も改正され、一定の要件の下、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与の3つの類型に該当する役員給与の損金算入が認められています。

これら類型うち、役員に対して賞与を支給し、これを法人税の計算上損金としたいと考えたときに検討されるのが「事前確定届出給与」ですが、事前確定届出給与は役員賞与を損金にする為に考えられた支給方法ではありません。単に支給前に決議して届出をしておけば認められるというものではありませんので、支給後に否認されるようなことのないよう事前に十分検討する必要があります。

事前確定届出給与とは、原則として「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」とされており、この要件を満たすためには、原則として、役員賞与の支給を決定した株主総会決議等の日から1ヶ月を経過する日までに、決議日(=支給決定日)、支給対象者、支給額、支給時期などを記載した届出書を所轄税務署へ提出する必要があります。そしてもうひとつ、事前確定届出給与を損金算入するに当たっては「職務執行期間」に注意が必要です。

役員の職務執行期間は、原則として、定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの期間の1年間と想定されています。その職務執行期間に係る役員給与については、職務執行期間の開始日である定時株主総会において事前に決定するのが原則です。つまり、役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価ですので、それ以前の過去の職務執行期間の対価である業績賞与や決算賞与は事前確定届出給与に該当しないこととなります。このため、事前確定届出給与を支給するに当たっては、将来の職務執行期間の対価であることを株主総会議事録等で明確にしておくことが重要となります。

会計処理との関係で言えば、前期に計上した役員賞与引当金を取り崩して役員賞与を支給する場合には過去の職務執行期間の対価であることの証拠とされる可能性があります。前期決算において役員賞与引当金を計上することは、当期以前の業績に基づき、過去の職務執行期間に係る報酬を見積計算していると考えられるためです。令和5年の国税不服審判所の裁決では、前期に引当金を計上し支給時にこれを取崩す会計処理をしたとしても、その会計処理をもって直ちに職務執行の時期が判断できるものではないとされていますが、本裁決は、他に過去の職務執行の対価分だとする事実が見当たらなかったことを踏まえて、あくまで当該事案の下での事例判断を示したものに過ぎず、前期末に賞与引当金を計上していた場合でも「事前確定届出給与」であると認められることになったと理解すべきではありません。役員賞与引当金を計上することで否認リスクが高まる可能性も十分考えられますので、事前の対応としては慎重であるべきと考えます。


社員税理士 泉 俊史

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