◆「103万円の壁」を越えてみた→その先には意外な事実が!◆
Q: 私、思い切って超えてみるわ!
A: そんなことしたら、大きな税負担になる?ならない?
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【壁を越えたら損をする?】
・パート社員A子さん:「どんな壁だって、私乗り越えるわ」
・同僚B子さん:「そんなの乗り越える必要ないわよ」
・A子さん:「どうして?!昔、恩師に『どんな壁があろうとも努力すれば乗り越えることが出来る』って教わったわ」
・B子さん:「でもね、この壁は乗り越えたってイイことは1つもないのよ。逆に乗り越えると損してしまうのよ」
さて、A子さんとB子さんは何について話しているのでしょう。
皆さんお気付きですね。今、国会等で話題になっている「103万円の壁」の話です。
【勇気を出して壁を越えてしまったら】
さて、B子さんは何故「乗り越えると損をする」と言っているのでしょうか。
それは、乗り越えてしまうと、下記のようなことが起こると心配しているからです。
・越えてしまうとご主人の控除対象配偶者(いわゆる税金上の扶養から)外れてしまうので、ご主人の税金が上がってしまう。
・越えてしまうと、A子さん自身に所得税が生じてしまう。
・B子さん:「ほーらっ、こんなことが起きちゃうでしょ。だから損するって言ってるのよ」
【私、超えてみるわ】
B子さんは、もっともらしくお話していますが、果たしてそれは本当なのでしょうか
試しに103万円をちょっと超えてみましょう。
・A子さん:「私、思い切って超えてみるわ」「えっーい」
・B子さん:「あなた!・・そんなことして、だっ・・だ・・大丈夫?」
・A子さん:「あれっ・・何んだかそんなに変わらないわ」
・B子さん:「変わらないって、何がどんなカンジで変わらないの」
A子さんとB子さんは、計算されたA子さんの税金の数字を見てみました。
それによると・・・
・越えた金額:7万円(よってパート年収110万円)
・A子さんに課された所得税額(復興税含む):3,573円
・A子さんの住民税:5,000円だったものが+7,000円
・A子さん:「7万円パート収入が増えたけど、私が負担する税金は1万円そこそこで済んだわ」
・B子さん:「あなたの税金はそんな程度で済んでいるかもしれないけど、重要なのは、ご主人の税金よ。扶養が外れちゃうのだから大変な税負担よ!」
・A子さん:「それが・・」
・B子さん:「ほーらっ・・大変な数字でしょ!」
・A子さん:「それが、増えてないのよ」
「そんな訳無いでしょ」とB子さんは、言いその数字を見てみると、A子さんの言うとおり、ご主人の税額は全く変わっていませんでした。
これは一体どういうことなんでしょうか。
【増えない秘密】
A子さんは103万円を超えました。超えてしまったので、ご主人は配偶者控除を受けれなくなりました。
その控除額は所得税ベースで38万円です。ご主人の年収が600万円程度であれば、その効果は税額ベースでおおよそ8万円です。
つまり、103万円を超えてしまうと配偶者控除が受けれず、A子さんのご主人の場合8万円の増税となってしまいます。
しかし、先のとおり、A子さんのご主人の税金は増えていませんでした。
それには、こんな秘密?があります。
【秘密の正体:配偶者控除から配偶者特別控除に移行した】
・A子さん:「私、『特別枠』になったみたい」
・B子さん:「なんなの、その『特別枠』って?」
103万円の壁の問題は、従前からありました。以前は、その壁を越えてしまうと、控除が外れ、世帯(ご主人)の税金が途端に上がる状態でした。
「それを何とかしなければならない」ということで、昭和62年に配偶者特別控除という制度が設けられました。
その後、改正され、現行のカタチになりました。
・B子さん:「その現行のカタチってどんなモノなの」
一言で説明すると103万円を超えても150万円までであれば、配偶者控除と同じ控除が受けれるモノです。
その仕組みは下記です。
・103万円を超えると配偶者控除(控除額38万円)は受けれなくなる。
↓
・その代わり配偶者特別控除というモノが受けれる。
↓
・その控除額は、パート収入だけの場合、年収が150万円までであれば、38万円
↓
・150万円を超えても、控除額がいきなり0になるのではなく、超えた額に応じ段階的に下がっていく。
このようなことで、税においては、配偶者のおける103万円の壁は既に解消されているのです。
【僕も超えてみる!】
・B子さん:「そうなんだ・・そんな前から壁は無かったの。だったら103万円なんか気にせずもっとシフトに入ればよかったわ!」
・C夫さん:「そうですか!だったら俺、もっとシフトに入って、バイト代稼ぎます!」
と・・先ほどから2人の会話を聞いていた学生アルバイトのC夫くんが言いました。
【それはちょっと待って!】
150万円まで控除額が変らない特別控除制度があるのは、配偶者だけで、学生など親の扶養となっている者は、103万円を超えると一気に税金が上がってしまいます。
特に大学生世代(19歳以上23歳未満)の扶養親族は、特定扶養親族ということで、その控除額は配偶者控除額よりも30万円多い63万円になります。よって、壁を越えた時の税負担増は、かなり大きな額になります。
・C夫さん:「そうなんだ。学費とか色々入用があって、バイト代はもっと欲しいところなんだけど」
【只今、検討中】
そのような声を受け、この度、与党と一部野党との合意で、2026年度から、C夫さんのような学生アルバイト等の103万円の壁を130万円とか150万円に引き上げることを検討しています。
この度の衆議院選挙の結果を受け、与野党の構図が変わり、控除適用の壁について、様々な議論が交わされることになりました。
これに対する賛否両論はありますが、これまで、テーマに上がらなかったことにスポットが当てられ議論されていくことは、悪いことではないと考えています。
今後の動向をしっかり見ていきましょう。
【補足】
今回は税における控除要件の壁について説明しましたが、壁には、社会保険や厚生年金に加入する・しないの壁(106万の壁・130万円の壁)があります。
配偶者については、税の面だけを考えた場合、103万円の壁を越えても、いきなり大きな税負担にはなりませんが、社会保険料や厚生年金保険料などを考えた場合は大きな負担増になるケースもあるので、その点ご注意下さい。
また、配偶者特別控除は、納税者(例:ご主人)の所得が大きい場合は、その適用の一部もしくは全部を受けれないケースがありますので、注意して下さい。
社員税理士 小竹 勝