National Search Fund株式会社の前田と申します。この度は、朝日税理士法人様より寄稿の機会をいただき、心より感謝申し上げます。本日は、「事業承継」をテーマに、事業承継の新しい選択肢として私たちが推進を進めている「サーチファンド」についてご紹介をさせていただきます。
昨今、中小企業の事業承継課題が社会課題となっています。中小企業は、日本の企業数の約99%を占めており、日本の雇用の大部分と経済全体の付加価値の大半を支える日本経済の根幹です。また中小企業の多くは、創業者やその家族によって経営され、地域に根差し、その地域を支える活力の源でもあります。しかし、近年経営者の高齢化が進んでおり、後継者不在が顕在化しています。
多くの中小企業経営者は、自らの会社を「誰かに託したい」という想いがある一方、親族や社内には適任者が見つからないこと、また株式承継や保証人の問題などの課題もあり、その結果、多くの経営者が、M&Aや廃業という選択を迫られています。M&Aは一つの有効な解決策であり、近年急速に件数が増えておりますが、買い手の多くは資金力のある大都市圏の企業となるため、グループ会社の1社として存続することになります。そのため、元々の会社の理念や文化が失われる懸念や、地域資本の会社が減少し地域の活力・多様性が失われることに繋がり得ると考えています。
こうした背景のもと、新たな事業承継の選択肢として、「サーチファンド」が近年注目を集めています。サーチファンドは、経営者として挑戦を望む情熱を持った優秀な人材(「サーチャー」といいます。)が、投資家の支援を受けて企業を買収・承継し、発展を目指す米国発祥の金融モデルです。このモデルでは、新たな優秀な後継者のもとで、現経営者の想いや企業の理念・文化を承継し、従業員の雇用を守りながら、地域資本の会社として存続することが可能になります。また、サーチャーは、大手企業や金融機関で活躍してきた優秀な人材であり、多様な経験を活かし、新たなアイデアやテクノロジーを実装することにより、中小企業のイノベーションと持続的な発展を実現することができます。
このサーチファンドの仕組みを発展・普及させることに、私たちは人生をかけて取り組んでいます。私たちは、事業承継の課題に対処し、また人材の流動化を促し経営人材を育成・輩出することで、地域の中小企業の成長を実現し日本を元気にすることを目指して、銀行、商社、リクルート、ソフトバンク、スタートアップなど、多様な背景を持つメンバーが集まったスタートアップです。2023年3月に、横浜銀行から10億円の出資を受けて「サーチファンド未来創造」を設立・運営をしており、経営者としての資質と情熱を持った人材の発掘・育成、中小企業経営者へのご紹介、また出資を通じて、事業承継とその後の発展に向けて取り組んでいます。
現在、累計100名を超える優秀な人材からの応募がきています。私たちが大切にしているサーチャーの条件は、中小企業の経営者として、強い「原動力」を持ち、自身と社内外の人々のマインドや行動をアップデートさせながら、大きな「変化」を創り出すことができる人物です。具体的には、どんなに厳しい状況においても「逃げない」強さ、現状に問いを投げかけ甘んじることなく新たな価値を創出する「アントレプレナーシップ」、そして年齢や立場に関わらず社内外で人々に愛され、関わる人々を巻き込む「チャーム」を持っていることです。これらは、学歴や職務経歴のみで評価できるものではなく、人生をかけて共に挑戦するパートナーとして、一人一人との対話を重ねる中で見極めています。2024年3月末には、2人のサーチャーによる事業承継が成立予定です。引き続きサーチファンドを通じた事業承継の実現に向けて邁進して参ります。
私たちの取り組みが、事業承継の課題に直面している多くの企業にとって少しでも希望の灯りとなり、またサーチャーを志す人たちにとっても新しい未来への扉を開く第一歩となることを心から願っております。もし私たちの取り組みに興味や関心がありましたらお気軽にお問い合わせください。皆様の温かい応援と、貴重なご意見やご指導をいただければ幸いです。
著者プロフィール
National Search Fund株式会社 取締役 前田 健太
2017年より双日株式会社にて与信審査や事業投資先モニタリング等のリスク管理業務を担当し、2019年にはフィリピンにて新設子会社の立ち上げ支援(ガバナンス体制整備)に携わる。2022年に当社を創業。佐賀県武雄市出身。一橋大学商学部経営学科卒。
URL: https://ns-fund.jp/